遺産(相続財産)の相続手続には様々な手続があります。
先日は、これらの手続のうちの所得税に関する手続の一つである準確定申告についてご紹介しました。
今回はもう一つ、相続税の申告についてご紹介します。
相続税の申告は、申告期限までに行わなかった場合や、実際に取得した財産の額より少ない額で申告をした場合には、本来の税金のほかに加算税や延滞税がかかる場合がありますので、とても重要な手続です。
相続税とは簡単に言えば、亡くなった方の財産(遺産)をもらったときに課税される税金のことです。
国税ですから、相続税は国(税務署)に申告・納税することになります。
相続税の申告手続
相続税の申告書は通常、相続人などの申告義務のある方全員が、共同で1通作成し、亡くなった方(被相続人)の死亡時点の住所地を管轄する税務署に提出することになっています。
提出書類 | 相続税の申告書(計算書や明細書を含む。) |
提出先 | 亡くなった方(被相続人)の死亡時点の住所地を管轄する税務署長 |
提出期限 | 相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内 (相続税の納税期限も同じ) |
提出する人 | 被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した方 (遺産総額が基礎控除額(非課税枠)を超えている方のほか、相続税について特例を受けたい方) |
所得税の申告ならまだしも、相続税の申告書を作成したことのある方はそうそういらっしゃいません。
申告書の記載例と主な提出書類を掲げておきますが、難しいと思われたら、税務署か税の専門家に相談することをお奨めします。
相続税がかかるかどうか(概略)
亡くなった方(被相続人)の残した相続財産額(遺産額)が、この金額以下ならば相続税はかからないという非課税枠(基礎控除額)を超えていれば、相続税の申告書を作成し提出(申告)しなければなりません。
相続税の申告が必要な方は、税法令に則って評価した相続税の合計課税価格が、基礎控除額(法定相続人の数により増減します)よりも多い方はもちろん、相続税の申告をすることにより、相続税がかからなくなったり、減額となるケースの方となります。
後者の方がこのような特例を受けるには、相続税の申告に当って様々な要件がありますので、税務署又は税の専門家に問い合わせなさってください。
また、先ほど述べたとおり、相続財産(遺産)の評価や相続税の計算は、税法令に則った評価方法がありますので注意が必要です。
特に、遺産の中に預貯金以外の、土地・建物や非上場株式のある方は、少し専門的な知識をもって評価することが必要です。
決して、税務署が積極的に教えてくれる訳ではないので、これも税務署か税の専門家の方へこちらから尋ねてみてください。
お時間と気概のある方のために、国税庁ホームページに掲載の特集ページがありましたのでリンクしておきます。
→ 相続税に関する特集ページ
相続税の計算方法(概略)
繰り返しになりますが、相続財産(遺産)の評価額の合計が、相続税の非課税枠(基礎控除額)を超える場合は相続税がかかりますので、相続税の申告と納税を自ら行うことになります。
課税遺産総額の計算
ここで問題となるのは、「相続財産(遺産)の評価額の合計」なのですが、実は、この額は単なる「遺産総額」ではありません。
遺産分割協議などで対象とする遺産の総額と、この「遺産の評価額の合計」とは異なるものです。
再度、国税庁ホームページから引用します。
遺産総額から、いろいろなものが加えられ引かれて、やっと、相続税のかかることとなる課税遺産総額(この図では「正味の遺産額」)が導き出されます。
参考・贈与税の申告内容の開示請求手続
ところで、課税遺産総額(正味の遺産額)については、相続人のうちのどなたかが被相続人の生前に贈与された「相続時精算課税の適用を受ける贈与財産」と「相続開始前3年以内の贈与財産」の2つを課税価格を知っておかないと計算できないケースもあると思います。
贈与を受けた方が分からなかったり、教えてくれない場合には「贈与税の申告内容の開示請求手続」を利用することができます(相続税法第49条第1項)。
この制度は、相続税の申告や更正の請求をしようとする者が、他の相続人等が被相続人から受けた、
- 相続開始前3年以内の贈与
- 相続時精算課税制度適用分の贈与
に係る贈与税の課税価格の合計額について、税務署に対して開示請求するものです。
手数料は無料ですが、相続人のうちのどなたかが贈与税の申告を行っている場合、又は行っている可能性がある場合であるのに、その相続人から情報を得られないときには、相続税額の計算に大きな狂いが生じますから、ケースによっては必須となる手続となります。
基礎控除額
次に、基礎控除額についてご説明します。
相続税がかかるのは
課税遺産総額(正味の遺産額)> 基礎控除額
相続税がかからないのは
課税遺産総額(正味の遺産額)≦ 基礎控除額 の場合です。
相続人にとっては、この「基礎控除額」は大事です。
すなわち、これによって相続税がかからないか、少なくなるからです。
ところが、ご存知の方は多いと思いますが、国はこの基礎控除額を絞ってきました。
(と言っても、国民の選んだ国会議員の多くが法改正に賛成したからですが)
具体的には、基礎控除額について、それまで「5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数)」だったものを、平成27年1月1日以降、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」としました。
従来に比べて、いきなり4割減となりました。
このことにより、これまでのケースでは相続税の申告・納税が必要なかった方が、この度は申告や納税するケースが大幅に増えるとされる所以です。
(ご参考)
近年の基礎控除額の変遷を書いておきます。
相続税の計算手順
本来の相続財産額(遺産額)からみなし相続財産等を加除することにより「課税価格の算出」したものから、基礎控除額を差し引いて「課税遺産総額」を求めることになることは先ほどご説明しました。
そして、「相続税の総額」の計算に当たっては、上記の「課税遺産総額」に税率掛けるのではなく、次の手順で求めます。
- 「課税遺産総額」を「法定相続分」どおりに分けたと仮定し按分
- 按分したそれぞれの金額に税率(*)を掛けて、仮の法定相続人ごとの税額を計算
- 仮の法定相続人ごとの税額を合計
*相続税の税率はこちらをご覧ください。(国税庁のホームページが開きます。)
そうして計算された「相続税の総額」を、今度は実際の相続割合で按分し、配偶者控除等各種の税額控除を行うことにより、各人の納付税額が計算されます。
なお、相続人間で相続税の申告・納付期限までに遺産分割ができなかったときは、民法に規定する相続分で相続財産を取得したものとして相続税の申告をすることになっています。
以前ご紹介した「遺産分割協議」は、相続が発生したからといって必ず行わなければならないものでもなく、またその期限も設けられてはいません。
しかし、相続税の申告期限でもある「10か月以内」を目安にすることが望ましいです。
特別な事情があれば別ですが、そのうちになどと言って協議がまとまらないまま、10か月を超えてしまえば、なお更、いつまでもまとまらない可能性が高くなると考えるからです。
相続税の連帯納付義務
ところで、相続税においては、相続・遺贈により財産を取得した全ての者に、相続税の連帯納付義務が、当該相続等により受けた利益の価額相当額を限度として課されるという怖い仕組みがあります(相続税法第34条第1項本文)。
つまり、納税義務のある別の相続人が相続税の納税をできなくなって、相続税が滞納状態となった場合、他の相続人が原則、その滞納を肩代わりすることとされています。
ただし、法改正により、平成24年4月1日以降に申告期限が到来する相続税はその申告期限から5年経過すれば他の相続人・受遺者に連帯納付義務が課されないことになりました。
自分の相続税は既に支払ったのにもかかわらず、他の相続人がその支払を怠っていれば、「その分の相続税も支払え!」と税務署から請求が来るわけです。
相続税の特例
前で述べましたが、相続税の申告(申告書の提出)が必要な方は、
- 遺産総額が基礎控除額(非課税枠)を超えている方のほか、
- 相続税について特例を受けたい方、つまり、相続税の申告をすることにより、相続税がかからなくなったり、減額となるケースの方です。
次表の特例を受けようとする場合は、いずれも相続税の申告期限までに申告しなければなりません。
相続税の主な特例
- 配偶者の税額軽減(配偶者控除)
被相続人の配偶者の課税価格が 1 億 6,000 万円までか、配偶者の法定相続分相当額までであれば、配偶者は相続税が非課税となるもの
- 小規模宅地等の特例
被相続人又は被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等がある場合には、一定の要件の下に、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定割合が減額されるもの
※ 居住の用の場合:限度面積 330 ㎡ 、減額される割合80%
- 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例
会社の後継者である相続人又は受遺者が、相続又は遺贈により、経済産業大臣の認定を受ける非上場会社の株式又は出資を被相続人から取得し、その会社を経営していく場合には、その経営承継相続人等が納付すべき相続税のうち、その非上場株式等に係る課税価格の80%に対応する相続税の納税が猶予されるもの
以上、遺産(相続財産)の相続手続のうち、「相続税の申告」について大まかにご紹介しました。
今回の内容はこれまでになく、複雑かつ膨大でしたね。
かなり省略したのですが、相続税の仕組みのご紹介だけで一冊書けそうなくらいです。
それでも、今回は、亡くなった方(被相続人)が残した財産が、相続税の非課税枠を超えていれば、10か月以内に相続税の申告書を、全相続人等が共同で作成し税務署に提出することになっているということを是非覚えておいてください。
相続を経験した方でも、相続税の申告まで経験した方はとても少ないと思います。
また、税務署に提出する申告書類を単に作成するだけでなく、相続財産調査や相続人調査、場合によっては遺産分割協議を経て、複雑な税法令も踏まえて作成するのが容易ではありません。
ましてや、相続税には、長いようで短い10か月という申告期限のおまけ付きです。
また、亡くなった方が配偶者の場合(一次相続と呼びます。)の遺産分割の方法によっては、いずれ訪れるご本人の相続(二次相続と呼んでいます。)の折に残された方々に相続税が多くかかるケースもありますので、相続財産(遺産)の多い方は、一次相続の折から二次相続のことを考えておく必要があります。
鹿児島の相続相談、相続税申告のお手伝いなら
かごしま相続相談・支援センターでは、所得税の準確定申告同様、相続税の申告そのものについては、直接お手伝いすることはできません。
相談をお受けする中で相続税制度や仕組みに関してのご案内等を行いますが、どうしても税理士の関与が必要となる場面もございます。
税務署でも親切に教えてくれますが、やっぱり税理士にとお考えの方で、税理士のお知り合いがいらっしゃらないときは、当センター提携の税理士をご紹介しますのでお問い合わせください。
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