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知っておきたい「遺言」の豆知識

相続の基本原則

相続開始の原因

Q.相続はいつ発生しますか?

A.相続の開始原因は、被相続人の死亡によります。

<民法第882条>「相続は、死亡によって開始する。」

相続人

Q.誰が相続しますか?

A.被相続人の血族(被相続人と血縁関係にある人。縁組した養子を含みます。)は、次表の順位で原則、相続人になります。

このとき、先の順位の者がいる場合は、後の順位の者は相続人となることができません。(民法第887条、第889条)

順位 血族の相続人
第1順位 子(子が故人の場合は孫。孫も故人の場合はひ孫)
なお、この場合の「孫」は代襲者、「ひ孫」は再代襲者といいます。
第2順位 直系尊属(父母。父母が故人の場合は祖父母など)
第3順位 兄弟姉妹(兄弟が故人の場合はおい・めい)

 
また、被相続人の配偶者に当たる夫又は妻が存命であれば、血族の相続人の有無にかかわらず、常に相続人となります。

<民法第890条前段>「被相続人の配偶者は、常に相続人となる。」

相続財産

Q.相続人は何を相続しますか?

A.「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」とされています(民法第896条)。

例外として、被相続人の一身に専属したもの、例えば、老齢年金の受給権、生活保護受給権などは、相続人に引き継がれません(民法第896条ただし書き)。

なお、祭祀に関する権利(系譜、祭具及び墳墓の所有権)は、原則、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継することとされています(民法第897条)。

相続分

Q.相続人はどれだけ相続しますか?

A.相続人が数人あるときは、民法第898条により、相続財産は、分割されるまでの間、その共有に属するとされています。

被相続人は遺言により、原則自由に相続分を指定することができます(民法第902条)。

一方、この指定が無い場合には、民法第900条により、共有の相続財産を分割するに際し一応の基準(目安)となる相続割合(法定相続分といいます。)が、次表のとおり規定されています。

相続人 法定相続分
相続人が「子及び配偶者」の場合 各1/2
相続人が「配偶者及び直系尊属」の場合 配偶者は2/3、直系尊属は1/3
相続人「配偶者及び兄弟姉妹」の場合 配偶者は3/4、直系尊属は1/4

(注)「⒈子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるとき」は各自が受けるべきであった相続分を、「⒉代襲して相続する者が数人あるとき」は代襲元の者が受けるべきであった相続分を、それぞれ数人で等分します(民法第900条第4項、第901条)。
 
なお、借入金などのマイナスの財産は、相続の開始と同時に、法定相続分により各相続人が引き継ぎますので、遺産分割の対象とならないこととされています。注意が必要です。

遺言自由の原則とその制約

遺言自由の原則

Q.遺言の自由とはどういうことですか?

A.遺言については、民法により、次のことなどが定められています。

つまり、遺言者は、遺言をする・しない、遺言する場合の対象財産の選択、そして、一旦行った遺言について内容変更や撤回をする・しないに関する自由が与えられています。

  • 15歳に達した者は、遺言をすることができる(民法第961条)。
  • 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる(民法第964条)。
  • 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない(民法第968条第2項)。
  • 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる(民法第1022条)。

 
ただし、遺言には、次のような制約が設けられています。

遺言能力による制約

人には病気や加齢などのより判断能力が無くなることがあり得ますが、遺言には、遺言者に遺言能力の有ることが必要です。

遺言能力の無い時点で行われた遺言は、無効とされます。

<民法第963条>「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。」

遺言分による制約

遺言者は、遺言によって法定相続分とは異なる分割割合を、相続人に相続させたり、相続人以外の者に遺贈することができますが、

この例外として、兄弟姉妹以外の相続人には、遺言内容にかかわらず、最低限相続できる権利(遺留分といいます。)が認められています。(民法第964条ただし書き、第1028条)

<民法第1028条>
「兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
1 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の3分の1
2 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の2分の1 」
 

ところで、遺留分を確保したいとする場合には、遺留分を侵害された者が、遺留分を侵害している者に対する請求(遺留分減殺請求といいます。)を行使することとなります。

相続人から、遺留分減殺請求が行われることによってはじめて、遺言内容が、遺留分を侵害している範囲で変更されることとなります。
 
なお、遺留分を侵害して作成された遺言であっても、遺言の方式に沿って要件も満たしているものであれば、別の相続人による遺留分減殺請求権が、相続開始後の一定期間中、いつ行使されるかといった不安定さはあるものの、遺言自体は有効です。

公序良俗による制約

民法では、遺贈(遺言)も法律行為の一つとされていますので、遺言内容が、公序良俗に反するものとなっていると認められれば無効とされてしまいます。

<民法第90条>「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。」

有効・無効の判断は、ケースバイケースなのですが、遺贈が公序良俗に反するとして無効とされたものもあります。

不倫の関係にある女性に対して包括遺贈する旨の遺言が、遺贈の内容が相続人らの生活基盤に影響を及ぼすものであり、また、妻との離婚に際しては財産分与と慰謝料請求が求められていることを知りながら行ったなどとして、公序良俗に反して無効であるとされた例(東京地裁・昭和63年11月14日)

遺言の効力発生時期

Q.遺言の効力はいつ発生しますか?

A.「遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる」とされています(民法第985条)

「遺言書を作ると自由に財産を使えなくなる」といったご心配も要りません。

遺言するという行為は、契約行為などのような相手方の承諾を必要とするものではなく、遺言を残す時点では相手方を必要としない単独で行える法律行為とされています。

繰り返しになりますが、遺言の効力は、遺言者が亡くなった時点で発生するので、遺言に記した財産であっても、それまでの間は自由に売ったり、使ったりできます。

ところで、「遺言に記した財産を減らしたり、最悪なくなってしまったらどうなるのか」といった質問もお受けします。

この答えとしては、遺言が遺言後の生前処分などによって抵触する部分があれば、その部分について遺言を撤回したものとみなされる(民法第1023条第2項)ので、遺言書自体を必ずしも書き直す必要なないことになります。

他方で、遺言に記した財産(価値)が増えたら増えたで別の問題もありますが。

遺言の撤回

Q.遺言は撤回できるのですか?

A.「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる」とされています(民法第1022条)。

また、「遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする」ともされています(民法第1023条)。
 

「子供たちから頼まれた遺言書を書くと、子供たちから用なしと見捨てられてしまうのでは」といったご心配も無用です。お元気なうちは、撤回、書き換えが何度でも可能です。

遺言の方式

遺言の方式・種類

Q.遺言には種類があると聞きましたが?

A.おっしゃるとおり、遺言には、いくつか方式と種類が設けられています。

まず、「普通の方式」と呼ばれるものが、次のとおり、3種類あります。

「遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない」とされています(民法第967条)。

このほかに「特別の方式」と呼ばれるものがあります。豆知識のページでもありますので、一応掲げておきます。

種類 内容(条文抜粋)
死亡危急時遺言 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会いをもって、その1人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。
(民法第976条第1項)
伝染病隔離者の遺言 伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所に在る者は、警察官1人及び証人1人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
(民法第977条)
在船者の遺言 船舶中に在る者は、船長又は事務員1人及び証人2人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
(民法第978条)
船舶遭難者の遺言 船舶が遭難した場合において、当該船舶中に在って死亡の危急に迫った者は、証人2人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができる。
(民法第979条第1項)

 

なお、これら「特別の方式による遺言」は、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から6箇月間生存するときは、その効力を生じないこととされています(民法第983条)。

参考になりましたでしょうか。
知っていても損はないのですが、利用してみたいとは思いませんでした。

自筆証書遺言

Q.自筆証書遺言について教えてください。

A.「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」とされています(民法第968条第1項)。

 
自筆証書遺言のメリットは何と言っても、求められている形式に則りさえすれば、作成時の証人の立会いも要らず、費用の点から言っても気軽に作成できる点です。

一方、デメリットとしては、次の点などが挙げられます。

  • 後で説明する「検認手続」が必須とされていること、このため、その執行に当たっては残された相続人の手間と時間を必要とすること
  • 作成時に判断能力がなかったのではないかなどのあらぬ疑いが持たれ、場合によっては、遺言そのものの効力が否定されたり、相続人間に無用の紛争が生じること
  • 自己責任による保管のため、紛失や偽造、無断廃棄などの可能性が残ること

後で説明する公正証書遺言をいずれは作成することを強くお勧めしますが、書こうとする内容が複雑なものや遺留分への配慮が必要なものなど別にして、まずは自筆証書遺言をお書きになってみるのも良いかもしれません。
 

豆知識をもう一つ

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